19.上山競馬場 最期の日 3

 

 

 

放送席に現れた人影は、詰めかけた観衆の声援に感極まっている様子であった。

 

「ヨナハさ〜ん! あんたの実況、最高だったよーーー!!」

と叫ぶ男の声から、事情を知らない私にもだいたいのことが飲み込めた。

あとで調べたところ、この人影はかみのやま競馬場の専属実況を長く勤めた

與那覇さんという方のようだった。與那覇さんは傾いた上山競馬の存続のために

レースのビデオをショッピングプラザカミンのロビーで流すなどの努力をされていた

とのこと。この日を最も迎えたくなかった人の一人に違いない。泣いているようにも見えた。

 

市の関係者が退場する

 

 

見つめる人々

 

 

「お馬さんはどうなるのよーーー!!」と叫ぶ女の人の声が響く。

「お前らだけ安泰かーーー!!」怒りを含んだ男の声が市職員の背に叩き付けられる。

やり場のない感情が渦巻く、独特の雰囲気が息苦しい。

 

 

市長のメッセージが表示された

 

型どおりの挨拶文に愛想を尽かしたように人々は帰りはじめた。一気に諦めの空気が流れる。

 

 

  

 

 

    

 


 

 

  

  

  

 

 

通路壁面には競馬場の歴史をあらわす写真が並べられていた。

 

 

 

 

  

 

家路につくものと思われた人々が行列している。

 

 

  

 

騎手の方々が別れの握手をしていた。箱に入った缶ジュースなどを気前よく渡している。

子供1人に10本も渡してしまい、「行列はまだまだ続いてるぞー」といわれている人もいた。

 

  

  

   

 

複雑な心中ながら、ファンの前では明るく振る舞っていた。

 

かみのやま競馬場 2003.11.11 競馬場としては廃業

 

 


 

 

 

 

最期のレースを見送ったこの日、即日解雇になった人たちも多くいた。職を失うのは630人にも上るという。

馬にもまた厳しい道が待っていた。明けて翌12日、早くも処分場に向かうトラックに乗せられる馬たちがいた。

 

 

 

成長した競争馬には、特にレースがない状態でさえも、日に5000円を超える食費がかかるということもあり

1頭わずか1,2万円で食肉用として引き取られるとのこと。競走馬約600頭のうち半数ほどは廃止翌日以降

走ることどころか、草原で草をはむことさえ許されないままに、あっという間にこの世から消されてしまった。

 

 


当時の新聞記事より転記

 

 

2003年11月19日 水曜日

 

夢の跡〜かみのやま競馬廃止(7)

 

 競馬場内に住む関係者の住宅問題、見舞金支給、そして行き場がない競走馬―。

場外勝ち馬投票券発売所の建設費などを含め約40億円とみられる多額の負債を抱える中、

重い宿題を課せられている上山市。早急に対処すべき課題ばかりだが、今のところいずれも明るい

見通しは立っておらず、市の対応の遅さに関係者は不安と不満を募らせている。

 

 市の競馬対策室によると、競馬場内の厩(きゅう)舎団地で生活している関係者は、

厩務員を中心に約60世帯。市は当初、来年1月31日で退去してもらうつもりだったが、

「転居先が決まっていないのに追い出すのか」との関係者の猛反発を受けた。

 

強制的な撤去を求めることはできないと判断し、「猶予期間」として3月31日までは使用を認めることにした。

このような市の対応も関係者の信頼を失わせている。見舞金については市側からの具体的な提示はないが、

「市が考えている金額と、自分たちが求める金額とはかなりの開きがあるだろう」(横山崇司調教師会長)

と話すように、交渉の難航が予想される。

 

 市は40億円と推計される負債の返済について、本場を中心とした土地の売却などで充てるつもりだが、

見通しは立っていない。関係者の救済対策にかかる費用は、他場の場外発売を継続することで

ねん出する予定というが、来年度以降も場外発売が可能かどうかは現段階では未定だ。

 

 

 市川昭男山形市長は「合併協議項目の中で『財産及び債務の取り扱い』などに該当することがあれば

議論の対象になるものと考えられる」、宇津井弘治中山町長は「上山市が解決策を練っていると思う」、

遠藤直幸山辺町長は「上山市の問題」と、上山市と広域合併を進める1市2町の首長はそれぞれ、

多額の負債に注目しながらも一定の距離を置いている。

 

今季は約600頭の競走馬がかみのやま競馬に所属していた。馬主会の阿部佐一事務局長によると、

競走馬として他場に移籍できそうなのは半数の300頭ほど。残り300頭は、このままでは“廃馬”に

せざるを得ない状況だという。廃馬とは、食肉などに処分すること。ある厩舎では当初17頭いたが、

現在では10頭に減っている。7頭はすべて食肉用として売られたという。

 

 

 

 ここの厩務員は「食肉の場合、1頭の値段は1-2万円ほどにしかならない。愛情込めて育てた馬なのに」

と嘆く。「馬は賢い。殺されに連れていかれる時は涙を流す。その後姿を見るのはつらい」。調教師OBの

香曽我部昇さんは馬と歩んだ生活を切々と振り返る。

 45年の間、多くの人に夢と希望を与え続けてきたかみのやま競馬。

「生活権」を奪われた関係者に対し、今度は市が希望を与える番だ。(おわり)

 

 


 

 

 

以前、競馬開催日には競馬場の数キロ前から国道13号は渋滞になり、問題になったものだった。

そのことが上山バイパスの開通を促した面もあったのだが、皮肉にもバイパス工事が進むにつれて逆に

問題となるほどの客の入りは見られなくなって渋滞の心配をする必要そのものが無くなってしまった。

 

  

  

 

 

かみのやま競馬について思い入れの深い方は下記サイト

この世はすべて競馬的

をご覧下さい。

 

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