34.寒映跡(寒河江市)

 

 

県都山形市には、過剰とも思えるほどの映画館が集中する一方、周辺都市では

映画館の淘汰があった。以前は、規模はどうあれ「市」と名の付くところには大抵

地方館があったものである。今は4万程度の人口しかない新庄でも、三吉座、日活

東映など複数館が営業していた。更に人口の少ない上山市でさえ近年までトキワ館

が生き残っていたなど、零細地方館を支えるだけの映画人口は保たれていたものだ。

 

映画を観たい人がいなくなったわけではない。映画館で観なくなっただけである。

レンタルビデオ、BS・CS等の衛星放送、家庭用シアターシステムなど映画館に

出かけなくても映画を観る方法は年々整えられてきた。その煽りをまともに受けて

地域に根ざしてきた零細映画館は次々と姿を消していったのである。

 

 

 

ここ寒河江にも映画館はあった。本町裏通りの飲屋街に「KANEI」の文字を

壁面に貼り付けた建物がそびえ立つ。「かねい」ではない。「かんえい」である。

 

 

寒河江の「寒」と映画館の「映」の省略形であろうが、廃館となった今となっては

「寒」という漢字表記が、寒々しい映画館業の置かれた状況そのものを表しているように見えてしまう。

 

 

  

 

映画館に家族で出かけることが「明るく楽しい」ことであった時代は確かにあった。

親に手を引かれ、ワクワクしながら怪獣映画を観にここに入った子供も多かっただろう。

デートの格好の場所であったかも知れない。老後の楽しみのひとつにもなっていただろう。

 

 

  

レトロな窓口                ひなびた看板

 

 

 

  

 

  

看板類を除けば公民館のような外観

 

 

 

隣の寺の看板

 

 

 

   

入口の映画ポスター

 

色褪せたポスターが数枚貼られていた。2004〜2005年春の映画であった。

常時開館ではなかったにしても、近年まで使われていたことがわかる。

 

 

 

   

南側側面

 

南側面は隣の本願寺の参道に面しており、ベージュのトタンで覆われていた。

内部には2階席まであり、畳敷きの座敷になっていたようだ。

 

 

 

  

北側側面

 

北側はネズミ色のトタンで葺かれている。隣家の庭に面している。

 

寒河江市民は映画が観たいときには山形市まで行っているのだと思う。

山形駅に隣接した霞城セントラルに行けば、ロードショーはほとんど観られる。

しかしそれでも寒映の建物を残しているというところに寒河江の意地のようなものが

わずかに感じられる。上山もそうであるが、廃館になった映画館を残している例は

幾つかある。地域の文化の名残が消え去ることを惜しむ市民の気持ちの表れであろうか。

 

 

 

 

寒映(2006.12月時点で現存)

 

 

 

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