小荷駄町にあった酒のひのきが撤退した後、奇妙な建物が建設された。
丸や楕円の窓の形、からみつく木の枝。
毒々しい彩色と禍々しい装飾。飲食店と知らなければ、怪奇系テーマパークと
思いこんでも仕方のないような様相の建造物であった。役所がよく建築許可を
だしたものだと妙な感心させられるものであった。
タイ本国の人がこれを見てどう思うだろうというほどの過剰な装飾であったが
これはこれでまたおもしろく、内部への興味もそそられた。
タイタイ(ThaiThai)はチェーン店であったと思うのだが、各地にこのような建物を建てていたのであろうか。
神経質な土地柄では抗議さえ受けかねない。いずれにしてもインパクト十分な外見であった。
夜になって内部を探索すると、これまた外見に匹敵する内装であった。
一度玄関前の外階段を上り、店内に降りてゆく。
あらゆるものが混然となってワンダーランドを形成していた。植物系のデザインを強調した
有機的な内装は刺激的であり、ここが山形であることを忘れさせるものであった。
各座席には一つ一つ異なった装飾が施され、同じ店内にいても複数の雰囲気が
楽しめる構造となっていた。中二階から店内を見下ろす席、階段の下に潜り込むような席、
卵の殻のような覆いの中でくつろぐ席など、何種類あるのかさえわからない多様な構成であった。
厨房から提供される料理は、それほど強烈なものではなく辛さもほどよい
居酒屋にふさわしいものだった。建物と同等のインパクトのある料理を
出されていたなら完食できなかっただろう。
トイレの装飾も凝っていて、妖艶な空間を作り出していた。
本場のタイのトイレがこのようなものだとは全く思わないが
自宅のトイレがこんなのだったらいいかもしれないと思わせるものだった。
バリアフリーなど全く考慮されていない独特の空間。規格化され、
妙に整然とまとまった店が多い中での異世界であった。
幼い頃にみたハワイドリームランドに通ずる要素を感じた。
話題を呼ぶかと思われたこの異空間も、保守的な風土になじまなかったか
わずかな期間で姿を消した。実働二年に満たなかったかもしれない。
二〇〇五年頃には無機質な倉庫へと姿を変えていた。
Thai Thai(タイタイ) 2004-2005年頃